ボリウッドの拠点・ムンバイ(インド) の現地ルポ

    

(2007年2月5日、毎日新聞)

ボリウッドとは、インド最大の都市ムンバイで製作される映画の総称。豪華な民族ダンスや3時間以上の長い作品が多いのが特徴。ヒンディー語が使われることが多い。

名前の由来

「ボリウッド映画は約20年前、米ハリウッドに対抗してボンベイ(現ムンバイ)の頭文字から名づけられた」。名前の由来を尋ねると、ボリウッドファンの観光ガイド、ヘマ・パパットさん(50)が解説し始めた。今ではハリウッドを超える世界最多の製作本数を誇り、インドで身分や宗教などの違いを超えて語り合える話題は映画だけという。ムンバイ市中心部から車で約40分のボリウッドの撮影拠点、フィルムシティーに向かった。

経済都市ムンバイ

いきなり渋滞につかまった。計画的に建設された首都ニューデリーと異なり、英国統治時代の区画が残る経済都市ムンバイは、道が狭いのに車が急増している。石造りの歴史的建造物を壊して道路を拡幅するよりはいいかもしれない、と思える風景が車窓をゆっくり流れていった。

時間を持て余したヘマさんが、携帯電話でヒット曲をダウンロードし始めた。「息子たちの音楽の買い方よ」。こうした変化も数年来の出来事で、社会の急変は結婚観も混乱させているという。

インドの結婚

ヘマさんが若いころ、結婚は親が決めるか見合いだった。「今は恋愛結婚ができるのに、21歳の長男は『結婚するなら母さんが決めた人』と言う」とヘマさん。「食事の宅配が充実し女性は家事から解放されつつある。でも料理のできない女性が増え、男性が台所に立つ風景も珍しくない」。長男は母親のメガネにかなう女性なら料理もでき、安心して働けると考えているらしい。「伝統の変化に人間の意識が追いつかない典型ね」。ヘマさんが明快に分析した。

ロケ地フィルム・シティー

2時間後に到着。宣伝部のスレシュさんは「世界に開かれた撮影場所」と胸を張り、山腹に広がるロケ地を案内した。ロケ地は「フィルム・シティー」と呼ばれている。ただ、この日はトップスター、アミタバ・バッチャンさんの64歳の誕生日で開店休業状態。パキスタンの製作会社が飛び降り自殺シーンを撮影していただけだった。

ガンジーの映画「ラゲーラホー・ムンナー・バイ」

2006年に建国の父マハトマ・ガンジーのブームを生み出したのは、映画「ラゲーラホー・ムンナー・バイ」だった。チンピラが書物などを通じてガンジーに出会い、真人間になる物語で、若者が建国の魂を学び直す契機になったという。

現代インドを知るなら映画が一番

「現代インドを知るなら映画が一番。インド人は世界で最も自国の映画に感化されている」とスレシュさんが言うと、ヘマさんは何度もうなずいた。

上映時間3~4時間

ボリウッド映画は主人公らの喜怒哀楽を歌と踊りで表現するため、上映時間3~4時間は当たり前。見るのは覚悟がいる。最近は日本人女性がボリウッド映画のDVDや人気俳優が歌うCDを買いにムンバイを訪れるという。2007年は日印文化交流50周年。関係者は韓流ブームのような「印流ブーム」を期待するが……。